私たちは今、メノスの目撃情報のあった古びた迷路の入口前にいる。
なんだかちょっと不気味かも……。
ここにメノスがいるのかな。いるとすれば目的はなんだろう。
「みんなっ!早く入ろう!!」
迷路を探検できるのが嬉しいのかニコニコと満面の笑みで私たちを見る赤木さん。
「リーダー、少しは落ち着きなよ。そんなに慌てなくても迷路は逃げないよ?」
勢いよく迷路に入ろうとする赤木さんを猿飛くんが引きとめる。
その様子を黒峰さんが面倒そうに見ている。早く帰りてえ、とか考えてそう。
黒峰さんが帰らないうちにさっさと入ったほうがいいかも。
「止めても無駄だぞ、黄平!俺は先にいくっ!」
「だから、単独行動は慎めとさっき言っただろう」
とにかく一番乗りしたくてうずうずしている赤木さんに少し怒り気味な青山さん。
その額にうっすら血管が浮いているように見えるのは私の気のせいだと思いたい。
どっちがハートレンジャーのリーダーなのか、わからなくなりそうな二人の会話を見守っていると、止める青山さんと猿飛くんを押しのけ、赤木さんがどんどん中に入っていく。
『カチッ』
何処からか、そんな音がした。
何の音か考えていたその時、赤木さんがスッと消えた。
「うわあああああああああああ」
赤木さんの叫び声が下から聞こえる。
黒峰さん以外の私たち3人は急いで赤木さんが消えた場所へ走る。
「お、落とし、穴?」
そこには、床に四角い穴があった。
さっきの音は、この仕掛けを出すスイッチが押された音ってことかな。
私は落ちないようその穴にそっと覗きこむ。
「赤木さーん!大丈夫ですかぁ!」
穴に向かって叫んだけど、私の声が空しく響くだけで赤木さんの返答はなかった。
「通信を試みたが応答がない。おそらく気絶しているのだろう」
あの赤木さんが気絶するほどの深い落とし穴って……。
普通の人だったら、下手をすれば大怪我ですまないんじゃ。
ここ、本当にただの迷路、なの?
「けっ、ざまあねえぜ」
振り返ると、入口の扉に寄りかかっている黒峰さんが穴を見て鼻で笑う。
「そういう言い方は駄目だよ、継ちゃん。仲間なんだからさ」
「知ったこっちゃねえよ。これ以上お前らといる気はねえ。俺は先に行く」
穴に気をつけながら入口から入って右の通路へ突き進んでいく。
……どうしてここには、人の話を聞かない人ばっかり集まっているの。
「継ちゃん、単独行動は駄目だってさっき玲ちゃんに言われたじゃん。
って聞いてないし。玲ちゃん、オレ、継ちゃんについていくね」
「そうしてもらえると助かる。何かあったら通信してくれ」
「アイアイサー!じゃあ、二人とも気を付けてね」
私たちに向け手を振るとささっと走って黒峰さんを追いかけていく。
「では、私たちもいこう」
「は、はい!」
青山さんは二人が進んでいった通路の反対へ進む。
私は置いていかれないよう慌てて追いかける。
今回の捜索、無事に終わればいいのだけど……。
数十分後、何度も行き止まりに当たりながらも先に進む。
途中で怪しげな建物をいくつか見つけたけど、とりあえず迷路を抜けるのが先決と考え今に至る。
それに……私はその数々の建物に嫌な予感がしたので入らなくて正解だと思う。
「それにしても、ここの迷路の壁、高いですよね」
「そうだな」
建物と同じくらいの高さでそびえたつ壁。
よじ登って上から捜索というのはあまり出来なさそう。
それにしても……さっきの深すぎる落とし穴。
どう考えても普通の人が遊ぶための迷路用とは思えない。
もしかして、私たちが来るのを予測してメノスが仕掛けたとか?
でも、何か引っかかる、なんて考えているとまた何処かからカチッという音がした。
「い、今の聞こえました?」
「ああ、また何かが起こるかも知れん。ピンク、気を付けるんだ」
「はい!」
二人で周りを見渡すと遠くからすごく響く音が聞こえる。
それは、私たちが通ってきた通路の向こうから近づいている。
音がする方へ視線を向けると、もの凄い勢いで私たちに向かってくるものがあった。
「って、ええ?」
「か、壁が迫ってくる?」
いつも冷静沈着な青山さんでも、この事態に驚いた声をあげる。
「とにかく、逃げるぞ!」
「はい!」
壁に押しつぶされないよう迫ってくる反対側へ走る。
走って、走って、後ろを見ることなくただひたすら走る。
すると、通路が二手に分かれる。
「ピンクは左に、私は右に行く!」
「りょ、了解です」
すぐ後ろに壁が迫る音がする。
少しでもスピードを緩めたら潰されちゃう!
私は青山さんに指示された左へ曲がると同時にドスンと壁がぶつかる。
「はぁはぁ……。つ、通路が……はぁ、はぁ……塞がれちゃった」
青山さんがいる方へみるとそこは元々行き止まりだったかのように通路が見事になくなっていた。
『ピンク、応答してくれ』
青山さんから通信が入る。
『はい、青山さんはご無事ですか?』
『ああ、一応な。しかし……』
『あの……変身して壊せないでしょうか』
『……駄目だ。壊せなくはないが、出来る限り施設を破壊することはしたくない』
いくらもう使われていない施設とはいえ、進んで壊すのも正義のヒーローとして良くない気がする。
……黒峰さんだと迷ったらすぐに壁を壊しそうだけど。
今のところそのような音はしないし、たぶんしてないと思う。
ただ、聞こえていないだけかもしれないけど。
『わかりました。とりあえずここで立ち止まらず先に進みましょう』
『単独行動は出来る限り控えたほうがいいが……仕方ないだろう。
何かあれば迷わず私に連絡してくれ。では』
通信が切れる。
こんなところで一人ぼっちになるなんてちょっと怖いな。
……でも、私だってヒーローなんだからこのくらいで怯んでいる場合じゃない、頑張らなきゃ!
と気持ちを改めたその時。
「侵入者がいると聞いて来てみれば君か、ハートピンク」
後ろから声をかけられる。
振り返るとそこには青色の眼をした少年がいた。
「ゼータ!どうしてここに」
「さあ?どうしてだろうね。君に答える義務はないよ」
「それは、そうだけど……」
「とにかく、ここを楽しみなよ。でも……できれば、ぼくを巻き込まないでね」
一体どういう意味か聞こうとしたらゼータはすでに居なくなっていた。
瞬間移動をしたのかそれとも--。
ゼータが消えた先に建物がある。
もしかしたらそこに入ったのかもしれない。
どの道、それ以外に行く場所がない。
うう、あまり気乗りしないけど行くしかないよね。
覚悟を決め私は建物の扉に近づき、音をたてないように開ける。
みんな、無事でいて。